Polstob
2026年10月25日(日)
分析企業

クオンツファンドからAI研究所へ 梁文鋒氏の幻方量化はどうディープシークを生んだか

梁氏の運用会社は、ディープシークが生まれる何年も前から深層学習用のクラスターを自前で築いていた。今ではジェーン・ストリート、ハドソン・リバー・トレーディング、XTXマーケッツもAI計算資源の購入や構築に動いている。

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DeepSeek(ディープシーク)が最初のモデルを公開するずっと前から、その母体であるヘッジファンドは、ニューラルネットワークが選んだ株式の売買をGPUで動かしていた。フォーブスによると、梁文鋒(Liang Wenfeng)氏は2015年にクオンツ運用会社の幻方量化(High-Flyer)を創業し、2023年に杭州を拠点とするAI企業のディープシークを立ち上げた。資金の一部は幻方量化から出したという。その間に幻方量化は2つの計算クラスターを自前で構築し、社内で開発したソフトウエアで運用した。売買モデルから、論文とモデルの重みを公開する研究所へと至るこの道筋は、クオンツ運用とAI研究が重なり合う早い時期の例だ。

マシンビジョンから出発した技術者

フォーブスによると、梁氏は浙江大学で工学の学士号と修士号を取得した。同大学は2025年3月、梁氏が15年前に情報・電子工学院で修士論文を仕上げたと記し、その謝辞を英語で引用した。同大学の英訳によれば、梁氏は指導教員のシアン・ジーユー(Xiang Zhiyu)氏のおかげで「マシンビジョンの分野」に出会えたと感謝している。フォーブスによると、梁氏は大学の同級生2人とともに幻方量化を設立し、数学とAIの手法を使って同社を「同国で最大級かつ最も好成績を上げるクオンツ運用会社の一つ」に育てた。Polstobは、幻方量化の運用成績や運用資産残高について、検証できる公表数字を見つけられなかった。

幻方量化自身が説明するAI基盤の構築
  1. 同社によると、幻方量化が設立され、数学とAIに基づくクオンツ投資を始める。
  2. 深層学習モデルが選んだ初の株式ポジションが実運用に入る。計算はGPUで行った。
  3. 同社によると、年末までにほぼすべてのクオンツ戦略でAIモデルを使うようになる。
  4. 幻方AI(High-Flyer AI)を登記し、GPU500基でFire-Flyer Iクラスターが稼働。同社は自らを「100億級クオンツ」の仲間入りをしたと説明している。
  5. Fire-Flyer Iへの投資総額が約2億元に達し、アクセラレーターカードは1100枚に。
  6. 幻方AIが10億元を投じてFire-Flyer IIを構築。
  7. Fire-Flyer IIの年間稼働は5674万GPU時間。遊休能力のうち1533万時間(27%)を研究支援に充てる。
  8. フォーブスによると、梁氏がディープシークを立ち上げる。

クラスターは研究所並みの造り

Fire-Flyer IIを支える技術は、ディープシークAI(DeepSeek-AI)の研究者による2024年の論文に記されている。梁氏は共著者の一人で、arXivへの投稿者にもなっている。著者らは「深層学習の訓練用に、PCIe版A100 GPUを1万基備えたFire-Flyer 2を導入し、DGX-A100に近い性能を実現しながら、コストを半分に、エネルギー消費を40%減らした」と書いている。これはエヌビディアのDGX-A100システムと比べた論文自身の数字だ。チームはクラスター用のソフトウエアも自ら開発した。幻方量化の沿革ページには、並列ファイルシステム(3FS)と分散学習用の通信フレームワーク(hfreduce)が挙がっており、論文は、このソフトウエア群によって計算と通信を並行して進められたとしている。

ディープシークと、そのコストの数字が示す範囲

ディープシークのV3技術報告書は2024年12月27日に梁氏を投稿者として初めて公開された。総パラメーター数6710億、うちトークンごとに370億が働く混合エキスパート(MoE)型の言語モデルで、14兆8000億トークンで事前学習したと説明している。報告書によると、訓練全体にかかったのはH800 GPUで278万8000GPU時間。事前学習は1兆トークンごとに、H800 GPU2048基のクラスターで3.7日かかった。ディープシークはモデルのチェックポイントをGitHubで公開した。

幻方量化の資金でディープシークは動き出したが、その後は外部資本も受け入れている。ディープシークが認めていない報道によるものだ。ストレーツ・タイムズが2026年7月15日に掲載したブルームバーグの記事は、2026年6月の74億ドルの資金調達でディープシークの企業価値が500億ドルと評価され、梁氏が個人で30億ドルを出資したと伝えた。2026年10月22日にはロイターが2人の関係者の話として、新たな調達で約1000億元を集めたと報じた。うち1人は、最大級の出資者として寧徳時代新能源科技(CATL)と騰訊控股(テンセント)を挙げた。フォーブスは、この調達額を149億ドル、ディープシークの企業価値を747億ドルとしている。

今度はトレーダーが計算資源を買う

コアウィーブは2026年4月15日、ジェーン・ストリートが同社のAIクラウド基盤の利用に約60億ドルを投じることを約束し、これとは別にコアウィーブのクラスA株10億ドル分を1株109.00ドルで取得したと発表した。コアウィーブの8-K(臨時報告書)には、ジェーン・ストリート・グローバル・トレーディング(Jane Street Global Trading, LLC)に917万4311株を発行したと記されている。2026年9月にはロイターがブルームバーグ・ニュースを引用し、ジェーン・ストリートがクルーソーとも約130億ドルの5年間のクラウド契約を結んだと報じた。この数字は確認されていない。コアウィーブの4月の発表資料で、同社の売上高担当シニアバイスプレジデント、マックス・イェルム(Max Hjelm)氏は、ジェーン・ストリートは「フロンティアラボのように運営されている」と述べた。

“当社は、世界の金融市場の研究を支える最先端技術への投資に深く力を注いでいます。ノイズの多い膨大なデータで大規模で複雑なモデルを訓練し、継続的に改良し、市場の効率化に役立つ規模で展開しています。”

Jane Street, コアウィーブの2026年4月15日の発表資料に掲載された声明 · sec.gov

原文: “We are deeply committed to investing in cutting-edge technologies that support our research in global financial markets, training large, complex models on massive volumes of noisy data, refining them continuously, and deploying at a scale to help make markets more efficient.”

ハドソン・リバー・トレーディング(HRT)はコアウィーブと複数年の契約を結び、エヌビディアのベラ・ルービンのシステムでAIを活用した売買の研究を行う。契約は2026年8月20日に発表された。コアウィーブは数十億ドル規模の契約だとしたが、金額や期間は示さなかった。2026年5月にはデルが、HRTがノルウェー西部のレフダル・マイン・データセンターズにAI研究用のデータセンターを最近開設したと発表した。デルの発表資料に投資額は書かれていない。

アルゴリズム取引会社のXTXマーケッツは自社サイトで、研究用クラスターに2万5000基超のGPUと1エクサバイト超の利用可能なストレージを備えているとしている。カヤーニ市によると、同社は2025年1月、フィンランドのカヤーニのデータセンター群に10億ユーロ超を投じる計画を発表し、最初の22.5メガワット(MW)のセンターは2026年に完成する予定だった。最高技術責任者(CTO)のジョシュア・リーヒー(Joshua Leahy)氏は当時、「当社の計算資源の需要は、借りられる選択肢の範囲を超えてしまった」と述べた。

重なりが示すこと、示さないこと

ジェーン・ストリートは自社の仕事を、ノイズの多いデータで訓練する大規模で複雑なモデルという言葉で説明しており、XTXは、チームには数学、物理学、プログラミング、機械学習の経歴を持つ人材がいるとしている。幻方量化は、梁氏が手法を公表しモデルの重みを公開する研究所を立ち上げる前に、クラスターとソフトウエアを自前で構築した。Fire-Flyer IとIIを築いた幻方量化と同じように、運用会社各社も計算資源の確保を進めている。ジェーン・ストリートとHRTはコアウィーブとのクラウド契約で、HRTはさらにノルウェーのレフダルに開設したデータセンターで、XTXはフィンランドで建設中のデータセンターで確保している。

開示されていないことは多い。幻方量化の運用成績や資産は、Polstobが検証できたどの情報源にも公表されていない。ディープシークはモデル構築の総コストを示しておらず、運用会社各社の契約も一部しか分かっていない。コアウィーブはジェーン・ストリートの約束額は示したがHRTの分は示しておらず、クルーソーとの契約額はブルームバーグの情報源に基づくものだ。